東京地方裁判所 平成12年(ワ)6876号 判決 2000年8月23日
原告
清水唯一朗
被告
青山秀明
主文
一 原被告間の別紙交通事故目録記載の交通事故に基づく原告の被告に対する損害賠償債務は、金二二万六一九一円を超えて存在しないことを確認する。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
原被告間の別紙交通事故目録記載の交通事故に基づく原告の被告に対する損害賠償債務は、金二二万一八八三円を超えて存在しないことを確認する。
第二事案の概要
交差点を左折しようとした自動車に、左後方から直進してきた自転車が衝突し、自動車に損傷が生じた交通事故について、自転車に乗っていた者が、自動車の使用者に対し、交渉が合意に達することが困難であるとして、一定額を超えた損害賠償債務が存在しない旨の確認を求めた事案である。
一 前提となる事実(証拠を掲げない事実は争いのない事実である。)
1 事故の発生
次の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。
(一) 発生日時 平成一二年一月二七日午後四時二五分ころ
(二) 事故現場 東京都品川区大井一丁目四八番一一号先路上
(三) 加害車両 原告が乗っていた自転車
(四) 被害車両 被告が同乗していた普通乗用自動車(品川三三〇ら九〇〇〇。メルセデスベンツ)
(五) 事故態様 被害車両が、事故現場の交差点を左折するため、交差点内に進入し、交差点左方出口の横断歩道の手前で一時停止したところ、左後方から進行してきた加害車両が、被害車両の左リアフェンダー付近に衝突した(被告本人、弁論の全趣旨)。
2 被害車両の所有関係
被害車両は、株式会社オリエントコーポレーションが所有し、被告はその使用者である(甲二)。
3 責任原因
原告には、本件事故発生について過失があった(原告は、一定額の損害賠償債務が存在することを認めているから、自らに過失があったことを当然の前提にしているものと理解することができ、被告も、右以上の損害額を主張する以上、これを認めるものと理解することができる。)。
したがって、原告は、民法七〇九条に基づき、被告に生じた損害を賠償する責任がある。
4 確認の利益
原告は、原告訴訟代理人を通じ、損害賠償について、被告と交渉してきたが、被告は、自らが希望する修理方法と代車料を主張していて合意に達することが困難であり、訴訟による解決を行うことにつき、被告も合意をした。
したがって、原告には、一定額を超える損害賠償債務が存在しないことの確認を求める利益がある。
二 争点
損害額が争点であり、被告が主張する損害額及びこれに対する原告の認否は次のとおりである。
1 被告の主張
(一) 修理費(消費税込み) 五三万九〇七〇円
(二) 代車料(消費税込み) 八四万〇〇〇〇円
メルセデスベンツSクラスを一日あたり四万円で二〇日分
(三) 評価損 三九万四〇〇〇円
2 原告の認否
(一) 修理費は、二二万一八八三円の限度で認め、(二)代車料及び(三)評価損は否認する。
第三争点に対する判断
一 修理費について
証拠(甲一、三の1ないし3)によれば、被害車両は、本件事故により左リアフェンダー(左後部ドアより後方部分)を損傷したこと、この修理のためには、少なくとも、損傷部分の板金作業と、損傷部分を含めてそれと一体となった部分の塗装作業を行う必要があり、その前提として、塗料が付着しないように塗装作業を行う部分の周辺部分を取り外した上、塗装作業完了後にこの部分を再び取り付ける必要があること、これらの作業を具体的に行うためには、リヤーバンパーASSY脱着、左テールランプASSY脱着、トランクトリム脱着、左フロントドアー内張り脱着、左フロントピラーカバー脱着、左フロントドアーウェザーストリップ脱着、左リヤードアー内張り脱着、左リヤードアーウェザーストリップ脱着、左リヤーフェンダー附属品脱着、修理及び塗装、左ルーフサイド塗装の各作業と、V12エンブレム及びショートパーツが部品として必要であること、これらの費用は、合計二二万六一九一円(修理費二一万五四二〇円、消費税一万〇七七一円)であることが認められる。
これに対し、被告提出のボディーショップ阿部作成の見積書(乙一、以下「阿部見積書」という。)によれば、修理費として、五三万九〇七〇円(消費税込み)を要するとのことである。しかし、これは損傷部分以外の塗装をも含むものである上(被告本人)、各修理内容と本件事故による損傷箇所との関連性が必ずしも明らかでないから、直ちには採用できない。
もっとも、被告は、本人尋問において、塗装むらがないような修理を依頼したところ、右のような見積内容になったとの趣旨の供述をする。
しかし、損傷部分の板金作業と、損傷部分を含めてそれと一体となった部分の塗装作業のみによった場合、どの程度の塗装むらが生じるのか主張も立証もない上、阿部見積書の塗装費用が、いかなる範囲までの塗装であるのかも明らかでない。
したがって、塗装むらがないような修理を依頼した結果の見積内容であるとの一事をもって当然にその内容を採用することはできず、その他、被告主張の修理費が相当であることを認めるに足りる証拠はない。
二 代車料について
証拠(乙一、二、被告本人)によれば、被告は、不動産賃貸業を営む有限会社飴勘商事を経営しており、会社には被害車両しかなく、これがなければ仕事や被告の日常生活に支障が生じる上、仕事の信用性の観点からベンツを使用する必要があって、これをボディーショップ阿部から借りる場合は、一日あたり四万円で二〇日分が必要であるとのことである。
ところで、交通事故により自動車が損傷を受けた場合、代車料は当然に損害として認められるものではなく、代車を使用しなければ、代車料以上の損害が発生するなど、代車を使用することが必要不可欠な場合に、一時的代替手段として相当な車種の使用料の限度でこれが認められる。
まず、代車の必要性に関しては、飴勘商亊の存否及び業務内容や、被告がその役員であることを裏付ける証拠はない。被告は、従業員の各業務内容や被害車両の使用状況について、抽象的かつあいまいな説明をするにとどまっており(乙二、被告本人)、一時的にでも被害車両を使用できないことで具体的にいかなる支障が生じるのかは明らかでない。また、被害車両の登録上の使用者は被告であり(甲二)、これまで作成された見積書の宛名も、被告あるいは被告が従前使用していた商号である「青山商事」宛てで作成されており(乙一、被告本人)、被告が、被害車両を飴勘商事の業務にどれほど使用しているのか疑問がないではない。したがって、乙第二号証及び被告本人尋問の結果のうち、代車の必要性に関する部分については、直ちには採用できない。
次に、仮に代車が必要であるとしても、そもそも、被告は、現時点では現実に代車を使用しておらず、代車料負担の損害は発生していない。また、修理期間中は親族や知人などから貸与を受けて対応する可能性も考えられるのであって(現に、被告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、被告は、本件訴訟の第一回口頭弁論期日において、原告訴訟代理人に対し、知人から貸与を受けた車両を使用して出頭したと説明したことが認められる。もっとも、被告は、本人尋問において、これを否定するが、わずか三回の口頭弁論のうちの初回の際の出来事であるのに、覚えていないとか、ヤナセの車であるとかあいまいな供述をしており信用できない。)、代車料の発生が確実であると認めるにも足りない。
したがって、ベンツを使用することの相当性を判断するまでもなく、いずれにしても、代車料は認められない。
三 評価損について
評価損は、自動車の交換価値の低下であり、車両の所有者に生じるものである。ところが、被害車両の所有者は株式会社オリエントコーポレーションであり、被告は、所有者ではないから(甲二)、被害車両に評価損が生じているか否かを検討するまでもなく、被告には評価損は認められない。
第四結論
以上によれば、原告の請求は、原告の被告に対する損害賠償債務が、二二万六一九一円を超えて存在しないことの確認を求める限度で理由がある。
(裁判官 山崎秀尚)
交通事故目録
一 発生日時 平成一二年一月二七日午後四時二五分ころ
二 事故現場 東京都品川区大井一丁目四八番一一号先路上
三 被害車両 原告が乗っていた自転車
四 加害車両 被告が同乗していた普通乗用自動車(品川三三〇ら九〇〇〇。メルセデスベンツ)
五 事故態様 被害車両が、事故現場の交差点を左折するため、交差点内に進入し、交差点左方出口の横断歩道の手前で一時停止したところ、左後方から進行してきた加害車両が、被害車両の左リアフェンダー付近に衝突した。